身近に実感

今日から新たにシドニーの都市部からのクイーンズランドへの立ち入りが閉鎖された。今朝ほどのブレーキングニュースで報じられたもので、都市部でのクラスターの集団感染による封鎖措置によるもの。ビクトリアに続きシドニー市内からもクイーンズランドに旅行することが出来なくなってしまった。8月に入っても暗いニュースが引き続く。


息子がシドニーに帰る際に国内線ターミナルで見送りに行った時に、ケアンズに到着した乗客が皆な到着ゲートの出口からマスクを付けて出て来るのを見て、初めてコロナの感染を身近に実感した。正直今までこんなにマスクをしている人を見たことが無かったのでちょっと怖かった。物々しい感じの中で到着した乗客に対して待ち構えている警察官に番号の書かれた紙を提示しながらその質問に皆な首を横に振りながら神妙に答えていた。


これが楽しみにしていたケアンズでの旅の始まりかと思うと、きっと気も多少滅入るかもしれないが、旅行に来た人は思う存分ケアンズを満喫して行ってほしい。シドニーの都市部やビクトリア州は今、完全に雰囲気がクイーンズランドと違う様。ビクトリアは今マスクの着用が義務付けられているらしい。


そしてシドニーにいる息子には十二分に注意してほしい。身近なところに感染者がいるのは、ここではちょっと想像できないけど、同じように今の日本もそんな感じなのかな。 今日のケアンズは8月としては珍しく雨もぱらついてどんよりと曇っているすっきりしない天気。でも、せめて天気ぐらいは澄み切った青空が今は欲しい。

ハチ

最近うちの犬の様子がちょっとおかしくなって来た。オーストラリアでは珍しい柴犬を飼っていて、名前は『ハチ」。もちろんあの忠犬ハチ公にあやかって命名した。もうすぐ11歳になる。そのハチが夜更けや明け方の早い時間に突然吠えまくるようになってしまった。どうやら認知症が始まったらしい。


柴犬の平均寿命は11歳と言われている。人間で言うと61歳だそうだ。まだまだ若いと思っていたが、耳が遠くなって来たようで、真夜中にいきなり隣りの家の塀に向かって何か幻覚を見ているように吠えてしまう。近所迷惑なのでこちらも直ぐに起きてハチをなだめに行くが、暫らくするとまた吠えまくる有様だ。


これが何日も続いたので獣医に相談した所、認知症の症状だと言うことが分かった。これに対する有効な治療法は無いらしく、とにかく散歩を長くして疲れさせて後はなるべく一緒にいて犬をかまってやる時間を長くすることが大切だと助言された。あのハチもとうとうお爺さんになってしまったんだと今更ながら我に問う。


「顔に始まり顔で終わる」という日本犬の格言があるが、どちらかと言うとキツネ顔で扁平な額にとぼけた顔は柴犬の出色のお株、オーストラリアにはちょっといないタイプの持ち味を出している。オーストラリアン・ケルピーと比較すると良く分かるが、やっぱり日本人と同じ日本犬でそこは同じ祖国の血が流れている気がする。


今は自分たちが寝る頃に一緒に家の中に入れて自分の寝床に丸まっている。最近は家の中が慣れて来て気にいったようだ。この頃は後どれくらい生きるんだろうか?と思ってしまうことが多くなってしまった。でもハチにはこれからもいっぱい長生きをして自分たちをずっと癒してほしい。

伝統

今朝の気温は12℃、ケアンズとしては特に寒い朝となった。朝靄のような霧が山のすそ野を覆っている思ったら燻った匂いがする。どこかで山が燃えているようだ。この季節のケアンズは晴天続きで乾燥して山が燃えることが多い。このような日がこれから延々と続く。


こんな肌寒い時はウールの暖かさが恋しくなる。 昨日、スイス人の若いお姉さんがポッサムとウールの混紡で作られた手袋を買ってくれた。スイスで待つお爺さんのお土産だそうで、「スイスはこれから寒くなるからちょうどいいねっ!」と言ったら「お爺さんにぴったりのお土産が見つかったわ!」と素敵な笑顔で返してくれた。


ウールと言えば羊の国オーストラリアだが、その数は7千万頭を超え、人間の人口の約3倍近くの羊が飼われている人間よりも羊の方が多い国だ。羊というと普通ニュージーランドを思い浮かべる人が多いと思うが、実はその数は3千万頭に満たなく断然オーストラリアの方が羊の数は多い。


羊と人間の関係は古くその歴史は古代メソポタミア文明まで遡り、起源前17世紀ごろから家畜として飼われてきたらしい。。羊を祭るためのフィエスタも盛んでマドリードの市街を羊が行進するトラスウマンシア祭は特に有名。


羊の中でも特に良質とされるのが毛質が繊細なメリノウールで、オーストラリアにメリノ種の羊が伝わったのは18世紀初頭に遡る。イタリアのイベリア半島のカスティーヤ地方から最初に13頭のメリノ種が輸入され、品種の改良を重ねながら今の羊毛産業の礎を築いていったということ。


現在このメリノ種の羊毛産業が盛んな地域はメルボルンから75キロ南に下ったジローンという場所が有名で、他にも有数のサーフスポットがあることでも人気な町だ。美しい景観にあるグレートオーシャンロードの公道を使って移動する羊たちはあのトラスウマンシア祭を思い起こす堂々の行進で、ここで生産されるシープスキンのブーツは皆さんに一番馴染があるのでは?


ただこの羊を刈る職人が今オーストラリアで激減している。「世界でもっともきつい仕事」と称される羊の刈り職人、アスリート並みの体力が必要とされ、辞めて去って行く職人が後を絶たないそう。だからこの職人芸は張本さんじゃないけど是非「あっぱれ!」をあげたい。その凄技とは。。


大きなバリカンひとつでモコモコに生え揃った羊の毛を刈って行き、同時にもう一つの手で頭を押さえ、さらに両足を使って胴体を押さえるという将に神業の域で、刈り終わった羊毛はぴっと毛布のように一枚に繋がっているのだ。そのスピードはわずか2分弱で8時間かけて約200匹も刈ってしまう凄技だ。ここのチャンピオンに輝いた職人は何と1分足らずで400匹も刈ってしまう名人もいるそうで、しかしこんな芸当を持ってでも一頭刈ってもたった3ドルちょっとしか貰えないそう。しかも出来高払いだから職人は稼ぎの良い牧場を転々と渡り歩くそうだ。


これも古き良きオーストラリアの伝統伎、日本なら無形文化財に登録される。是非こうした伝統を未来に引き継いでもらいたいと思う。