大地に宿る精霊たち

ディジュリドゥという民族楽器を奏でるアボリジニーはこの楽器を使って天地天上の全ての万物に宿る精霊と交信すると言われている。。「ドリーミング」と呼ばれる独自の世界観を持ち、常に自然と共にある生き方を選ぶ、世界最古の文化を持つオーストラリアの先住民族だ。


その名前の由来はラテン語の「始まり」アブ・オリジン(AB ORIGINE)から来ていて、その起源については4~5万年にアジアから渡来したという諸説がある。アボリジニーの人々はトーテミズムと呼ばれる創生神話に由来し、昔、神々の時代に「虹の蛇」とされる創造神が現れ人間を始めとして、山や岩、動物、植物など全てを創造した。そして自らが創造した自然界に化身して大地に潜んだ。その結果、この地上の万物全てにその精霊が宿ったという。


アボリジニーは創生神話の時代つまりドリームタイムという概念の中で、この世に存在する精霊こそが自然界を創造し、万物全ての生き物が自分たちの祖先になったと信じて来た。文字を持たなかったアボリジニーは歌や踊り、絵画、語りを通じて彼らのドリーミングを表現し洞窟の壁や岩などにその生命を吹き込みながら彼らの文化を今日まで守り続けて来ている。時代に翻弄されながらもアボリジニーの人々は今も尚その文化を未来に伝えようとしているのだ。


クイーンズランドに宿る精霊は、コロナの悪霊を見事に追い払ったが、ビクトリアやニューサウスウェールズでは今尚、山火事で焼け死んだコアラやユウカリの樹の精霊たちが人間になった精霊に罰を与え続けている。世界に宿る精霊もまた同じだ。クリスマス・キャロルの本に登場する強欲でエゴイストの守銭奴を演じた眉雪エべネーザ・スクルージを著者ディケンズは精霊を通じて人々に「慈愛の精神」を伝えようとした。ここでひとつ引用したい語りがある。「世の中は上手くなっているもので、病気や悲しみは伝染するものだが、その一方で笑いや喜びもとても移りやすいものなのだから道理に叶っているということだ」。


人々にはコロナも伝染するが、笑いや喜びもまた伝染する。早く世界中に笑いや喜びに包まれる日が来るこのを望んて止まない。そしてまた我々が生きるこの自然界にも畏敬の念を持って暮らしたい。かつて白人はこう言った。「アボリジニーは5万年の間この大地を守って来た。それなのに私たちはたった200年で壊そうとしている」。自分たちは今一度アボリジニーの生き方に思いを馳せる時なのかもしれない。しかし、ワクチンの精霊はいつ現れるのだろうか?