優しい巨人

昨日お客さんが買い物をした後に「どこから来たの?」と尋ねたら「ハービーベイよ」とにこっと笑って返してくれた。すかさず「クジラの見れる季節だね」と言うと「とってもいい所よ」と言って微笑みながら店を後にした。そうだなぁ ハービーベイは今、ちょうどクジラの見れる季節だなぁとザトウクジラを想い起こす。冬の風物詩にもなっているホエールウォッチングのベストポイントは何と言ってもクイーンズランドの南に位置するハービーベイだ。


7月から10月にかけて南極から暖かい海に向かって出産と子育ての為にオーストラリア東海岸を回遊するザトウクジラ、世界最大の砂の島であるフレーザー 島に守られて湾の入り江は安全に子育てが出来る最適な生育場所になっている。歯を持たない鯨髭のヒゲクジラの一種ですこぶる愛嬌があるクジラだ。日本では琵琶を背負った座頭に重なることからザトウクジラと呼ばれたらしい。成長した子供のクジラといっしょに再び南極に戻る長旅は1万キロに及ぶという。


歌を口ずさむのでも有名な楽匠ザトウクジラ、「唄は3分間のドラマです」と歌番組の司会のセリフで名を馳せた玉置宏さんも喫驚仰天する、歌唱ザトウクジラは何と一曲30分以上を何曲も繰り返して唄う歌手顔負けの歌い手だ。しかも歌はいくつかの旋律からなり、その旋律は句を並べて繰り返して歌うという句に精通する俳諧師でもあるのだ。


南極からの旅立ちの前には2トンものオキアミや小魚をお腹にいっぱい蓄えて、その回遊する移動中は餌を一切食べないという9月のラマダン月にも勝る断食に耐えてオーストラリアにやって来る、豪快に汐を吹き上げ海面から飛び上がって体を反らして宙を回り、背面から再び胸びれを叩いて潜る堂々たる風貌の海の王者、でもその姿は歌を奏でる優しい海の巨人だ。