伝統

今朝の気温は12℃、ケアンズとしては特に寒い朝となった。朝靄のような霧が山のすそ野を覆っている思ったら燻った匂いがする。どこかで山が燃えているようだ。この季節のケアンズは晴天続きで乾燥して山が燃えることが多い。このような日がこれから延々と続く。


こんな肌寒い時はウールの暖かさが恋しくなる。 昨日、スイス人の若いお姉さんがポッサムとウールの混紡で作られた手袋を買ってくれた。スイスで待つお爺さんのお土産だそうで、「スイスはこれから寒くなるからちょうどいいねっ!」と言ったら「お爺さんにぴったりのお土産が見つかったわ!」と素敵な笑顔で返してくれた。


ウールと言えば羊の国オーストラリアだが、その数は7千万頭を超え、人間の人口の約3倍近くの羊が飼われている人間よりも羊の方が多い国だ。羊というと普通ニュージーランドを思い浮かべる人が多いと思うが、実はその数は3千万頭に満たなく断然オーストラリアの方が羊の数は多い。


羊と人間の関係は古くその歴史は古代メソポタミア文明まで遡り、起源前17世紀ごろから家畜として飼われてきたらしい。。羊を祭るためのフィエスタも盛んでマドリードの市街を羊が行進するトラスウマンシア祭は特に有名。


羊の中でも特に良質とされるのが毛質が繊細なメリノウールで、オーストラリアにメリノ種の羊が伝わったのは18世紀初頭に遡る。イタリアのイベリア半島のカスティーヤ地方から最初に13頭のメリノ種が輸入され、品種の改良を重ねながら今の羊毛産業の礎を築いていったということ。


現在このメリノ種の羊毛産業が盛んな地域はメルボルンから75キロ南に下ったジローンという場所が有名で、他にも有数のサーフスポットがあることでも人気な町だ。美しい景観にあるグレートオーシャンロードの公道を使って移動する羊たちはあのトラスウマンシア祭を思い起こす堂々の行進で、ここで生産されるシープスキンのブーツは皆さんに一番馴染があるのでは?


ただこの羊を刈る職人が今オーストラリアで激減している。「世界でもっともきつい仕事」と称される羊の刈り職人、アスリート並みの体力が必要とされ、辞めて去って行く職人が後を絶たないそう。だからこの職人芸は張本さんじゃないけど是非「あっぱれ!」をあげたい。その凄技とは。。


大きなバリカンひとつでモコモコに生え揃った羊の毛を刈って行き、同時にもう一つの手で頭を押さえ、さらに両足を使って胴体を押さえるという将に神業の域で、刈り終わった羊毛はぴっと毛布のように一枚に繋がっているのだ。そのスピードはわずか2分弱で8時間かけて約200匹も刈ってしまう凄技だ。ここのチャンピオンに輝いた職人は何と1分足らずで400匹も刈ってしまう名人もいるそうで、しかしこんな芸当を持ってでも一頭刈ってもたった3ドルちょっとしか貰えないそう。しかも出来高払いだから職人は稼ぎの良い牧場を転々と渡り歩くそうだ。


これも古き良きオーストラリアの伝統伎、日本なら無形文化財に登録される。是非こうした伝統を未来に引き継いでもらいたいと思う。